冷やせば治るは昔の話

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怪我をしたらまずアイシング。
この言葉は化石になってます。
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治療家 藤田隆弘です

秋は運動会や
スポーツの季節です。

運動会で足をひねった
子どもに大人が慌てて
アイシングをする。

誰もが見たことのある
光景です。

大人になってからも
捻挫をしたらまず冷やす。

そう覚えている方も
多いはずです。

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僕も昔は冷やしていました
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実は僕もそうでした。

鍼灸整骨院で働いていた頃
捻挫、ギックリ腰、寝違いなど
痛みのある人には

まずは、アイシング。

それが一番大事な
処置でした。

患者さんが来ると
まず氷嚢。

患部に当てて20分。

治療の順番を
待っている間もずっと
冷やしてもらっていました。

良かれと思って一生懸命に
冷やしていました。

今思えば当時の僕は
医学の常識は

永遠に変わることはないと
本気で信じてました。

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常識には賞味期限がある
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医学は日々進歩しています。

昔は正しいとされていたことが
今では否定されている。

そんな例はたくさんあります。

昭和の部活を思い出してください。

練習中に水を飲むな。
足腰を鍛えるならうさぎ跳び。
すりむいた傷は消毒して乾かす。

当時はどれも常識でした。

今では水はこまめに飲むもの。

うさぎ跳びは膝への負担が大きく
すっかり見かけなくなりました。

傷も乾かさずに潤いを保つ
治し方が広まっています。

水を我慢した世代の方には
少し悔しい話かもしれません。

「あの我慢は何だったの?」
そう言いたくなりますよね。

そしてアイシングも
化石の仲間入りをしました。

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名付け親が撤回した
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アイシングが世界に広まった
きっかけは一冊の本でした。

今から半世紀ほど前の1978年。

アメリカの医師ゲイブ・ミルキンが
スポーツのケガの応急処置を
わかりやすくまとめました。

それが『RICE』です。

Rは、
安静にすること。

Iは、
アイシングをすること。

Cは、
包帯などで圧迫すること。

Eは、
心臓より高く上げること。

この四つはスポーツの現場でも
学校の保健室でも家庭でも
当たり前になりました。

ところが今から十年以上前のこと。

そのミルキン医師本人が
冷やすことも安静にしすぎることも
治りを遅らせるかもしれないと
ホームページで認めました。

言い出した本人が自ら撤回する。
勇気のいることだと思います。

それでも今も多くの人が
ケガをしたらまず冷やしています。

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腫れは修理が始まった合図
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では、なぜ冷やすと
よくないとされたのでしょうか。

足首をひねって靭帯を痛めると
その場所に血液が集まってきます。

血液は傷を治すための
細胞や栄養を運んできます。

だからケガをしたところは
赤く腫れて熱を持ちます。

腫れと熱は壊れた印ではなく
修理が始まった合図です。

少し意外ですよね。

腫れると僕たちはつい
「早く腫れを取らないと」と
思ってしまいます。

ここでアイシングをすると
冷えた場所の血管は縮みます。

すると修理のための細胞や栄養が
届きにくくなります。

撤回の理由もここにあります。

ただ人の身体で本当に
治りが遅れるのかどうかは
研究者の間でもまだ
議論が続いています。

それでも一つ
はっきりしているのは

冷やせば早く治るという
確かな根拠はないことです。

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三十年前に氷嚢を手放した
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実は僕は三十年前から
患部を冷やしていません。

スポーツ外傷の応急処置として
広く知られたRICE。

その名付け親である
ゲイブ・ミルキン医師が
考えを撤回するより
二十年近く前のことです。

きっかけは論文ではなく
毎日の臨床の現場でした。

捻挫をした足首では
関節や筋肉や靭帯が
ずれていることがあります。

僕がそのずれを整えると
腫れも引いていきます。

ずれた関節を元に戻すのが先。

それが臨床で分かってから
僕は氷嚢を手放しました。

一方で骨折がある時は
整えても腫れが引きません。

腫れが残るかどうかは
骨折を疑う目安になります。

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冷やすとセンサーが鈍る
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僕が冷やさない理由は
もう一つあります。

関節や足の裏には位置や動きを
感じ取るセンサーがあります。

足首がどこまで曲がっているか。
地面がどれくらい傾いているか。
体重がどちらに乗っているか。

目を閉じたままでも
足首の角度が分かりますよね。
それがセンサーの働きです。

このセンサーのおかげで
僕たちは足元を見なくても
転ばずに歩くことができます。

ところが冷やして感覚が鈍ると
このセンサーも鈍ります。

正座で足がしびれたまま
立ち上がったことはありませんか。

足の裏がふわふわして
思わずよろけてしまう。

冷やした足首で歩くのは
あれに近い状態だと思います。

痛みも感じにくくなるので
そのまま歩けてしまう。
でも足首の感覚は鈍いまま。

すると痛めたところに
かえって負担がかかり
悪化することがあると
僕は考えています。

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痛みが消えても治ってはいない
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試合中に選手が倒れると
コールドスプレーを
吹きかける場面があります。

すると選手はまた走り出す。

でもスプレーが冷やすのは
皮膚の表面にすぎません。

皮膚の感覚が一時的に鈍って
痛みを感じにくくなっているだけ。

ケガが治ったわけではありません。

近くから長く吹きかけると
凍傷になることもあります。

冷湿布も同じです。

貼るとひんやりしますが
あの冷たさの多くは
ハッカの成分による感覚です。

患部の奥まで冷やしている
わけではありません。

痛みをやわらげているのは
中の痛み止めの成分です。

だから僕は患者さんに
冷湿布は安静にしている時だけ
貼ってくださいと伝えています。

湿布で痛みが少なくなった。
だから買い物に行こう。
だから家事を片づけよう。

それでは何のために
身体が痛みを出したのか
分からなくなります。

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まず医療機関で検査を
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ただし次のような時は
医療機関での検査が先です。

痛めた足に体重をかけられない。
骨の上を押すと強く痛む。
足の形が変わっている。

足先にしびれが出ている。
数日たっても腫れが引かない。

骨折や靭帯の断裂など
大きなケガが隠れている
ことがあるからです。

検査で大きな異常がなければ
関節の状態を身体の専門家に
見てもらってください。

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ケガをした時の新しい合言葉
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では、今のスポーツ医学では
どんな考え方があるのか。

2019年にスポーツ医学の
専門誌で発表された合言葉。
それがPEACE&LOVEです。

PEACEはケガをした直後。
LOVEはその後の回復です。

まずケガをした直後に
PEACEですることは五つです。

痛みが増す動きを避けて守る。

患部を心臓より高く上げる。

炎症を抑える薬を急がない。

包帯などで軽く圧迫する。

そして身体が治る仕組みを知る。

この五つを英語にした
頭文字がPEACEです。

P Protect(守る)
E Elevate(高く上げる)
A Avoid(抗炎症を避ける)
C Compress(圧迫する)
E Educate(知る)

ここで注目してほしいのは
昔のRICEにはあった
アイシングが消えていることです。

三つ目にある抗炎症とは
炎症を止めることです。

市販の痛み止めの多くは
この炎症を抑える薬です。

湿布にも同じ成分が
入っているものがあります。

修理の反応を薬で抑えることに
疑問が示されるようになり
アイシングについても
同じように見直されています。

つまり、怪我やギックリ腰など
急性の痛みに対して痛み止めを
すぐに飲むなということです。

しかし、処方されている薬は
自己判断でやめずに
医師の指示を優先してください。

一方で高く上げることや圧迫は
腫れを増やしすぎないための
工夫として使われています。

最後のEducateが伝えるのは
身体はもともと治り方を
知っているということです。

痛みをその場で消す手当てに
頼りすぎないことも大切です。

痛みは身体からの声です。

「今は動かないで」

そう伝えてくれています。

その声をアイシングや湿布で
何でも消そうとしない。

まずは身体を守ることです。

そして数日がたって
状態が落ち着いてきたら
今度はLOVEの段階です。

ここからは逆にずっと
安静にはしません。

痛みの出ない範囲から
少しずつ動かしていきます。

最初から動くのでもなく
ずっと休むのでもない。

ケガの直後は守る。
回復してきたら動かす。

大切なのはこの切り替えです。

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五十年後も正しいですか
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半世紀前に生まれた常識が
今は化石になりました。
医学界ではよくあることです。

だから僕たちは常に最新の
情報を集めなければいけません。

特に医療にたずさわる者は
なおさらそうです。

「自分はプロだから」と
新しい情報に耳をふさいだら
そこで成長は止まります。

では、今の常識はどうでしょう。
五十年後にも正しいまま
残っているでしょうか。

今はAIに何でも聞ける時代です。

気になる健康の常識があったら
「これは五十年後も正しい?」と
聞いてみるのも面白いと思います。

僕が氷嚢を手放せたのは
目の前の患者さんの足首が
教えてくれたからです。

新しい情報と目の前の身体。

その両方からこれからも
学び続けていきます。

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次に足首をひねった時は
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最後にもう一度整理します。

アイシングそのものではなく
「冷やせば治る」という常識が
化石になったのです。

アイシングも湿布も痛み止めも
悪者ではありません。

痛みが楽になったことを
治ったと思い込むのが問題です。

腫れは身体が修理を始めた合図。
冷やさなくてもかまいません。

ケガをした直後の1日から3日は
次のことをしてください。

痛みが強くなる動きは控える。

横になって足を心臓より高くする。

包帯などで固定して軽く圧迫する。

鎮痛消炎剤や湿布は急がない。

医師から薬や冷やし方の
指示を受けている方は
その指示を優先してください。

痛みが強くて冷やしたい時は
1回10分までを目安に
ケガの直後にしてください。

氷や保冷剤は直接肌に当てず
タオルで包んで使ってください。

そして覚えておいてほしいのは
アイシングや冷湿布のあとは
動き回らない。

数日たって痛みが落ち着いたら
痛くない範囲で少しずつ
歩いたり動かしたりしていきます。

そして大事なことは
治ると信じて気持ちは前向きに。

運動会で子どもが足をひねったら
慌ててアイシングをする前に
まず痛みや腫れを見てください。

体重をかけられないほど痛い。
骨の部分を押すと強く痛む。
足の形がおかしい時などは
無理をさせず医療機関へ。

大人が慌ててしまうと
子どもはもっと不安になります。

大人が落ち着いていることも
子どもには大切な手当てです。

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思わぬケガは誰にでもあります。

でも大人には予定があります。

明日の大事な仕事。
約束していたゴルフ。
楽しみにしていた旅行。

だからつい湿布や痛み止めで
ケガをなかったことにして
「よし、動ける」となってしまう。

人間ですからそうなりますよね。

ただそれは身体にとって
よくない決断だと思います。

身体は「なかったこと」には
決してしてくれないからです。

痛みを消して動き続けると
完全には治りきらずに
後遺症が残ることもあります。

本来ならケガをした時は
その後の予定を中断してでも
自分のケガと向き合うこと。

それが元の生活に戻る近道です。

予定を諦めるのは
勇気がいります。

でもその勇気こそが
最大の応急処置かもしれません。

ーーー

最後までお読みいただき
本当にありがとうございました。

あなたの体と心が
少しでも軽くなりますように。

あなたの健康と笑顔が
誰かのための幸せな一歩に
繋がっていきますように。

治療家  藤田隆弘

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